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野ばらの屋敷

 屋敷の外壁の色は雨の跡に沿って溶け、曇った窓硝子には蜘蛛の巣のようなひび割れが走る。
 そして、噎(む)せるような花の芳香。
 陰になり茶色く枯れた蔓(つる)と、瑞々しい緑を誇る野ばらの蔓が渾然と絡まり、そのどちらからともなく壁一面を白い野ばらがみだりに飾る。四重五重まで花弁をちぢらす満開のもの、蕾よりやっと仄かに白さを覗かす稚きもの、咲ききる前に枯れてしまった、哀れな花も存在する。
 老人が枯れた花弁に触れると、それはぱらぱらと崩れた。
 指先は次の花を求め、葉の裏に隠れた慎ましやかな蕾を見つけ出すと、愛しげに撫でる。やがて光をいっぱいに浴びて咲き誇る、真っ白な野ばらの茎に手をかけると、その刺に構わず摘みとった。皺ばった指に、血が染みる。

 ふもとの村の人間は、数年前この地の領主が亡くなってより、屋敷は無人であると思っていた。
 老人は、誤解を解くべく屋敷を修繕する事も、人と交わる事もしようとはせず。ただ庭に出て、花を手折るのを日課としている。

・・・

 不治の流行病の少年の世話をし、看取ることがグレーゴアの仕事であった。
 病は感染力が強く危険であるし、それゆえ誰も他に人はつかない。だがその分、無才の一使用人としては、少し破格の給金が約束された。


「グレーゴア。一輪泥棒しても、いいですか?」
 グレーゴアが庭木の剪定をしていると、若い娘の声がそう問うた。見やると声の主は、グレーゴアを向いてはいない。麻のドレスの少女が背中の後ろに手を組んで、じっと錆色の壁を仰いでいた。
 少しほつれた金糸の合間に、一村娘にしてはできすぎた、白皙の、精緻な造りの横顔がのぞく。翠の瞳の視線の先を辿ってみると、屋敷の壁に蔦った野ばらの白い花弁にいきついた。
 刹那グレーゴアが見とれていると、後ろに組まれていた少女の白い手が、花に向かって伸ばされる。わずかに届かないようで、細い指先が、白い花弁の爪一つ下でわなないた。
「アンナ様、お待ちください。今摘んでさしあげます」
「だいじょうぶ。届きますので」
 グレーゴアが鋏(はさみ)を構えて近寄ると、少女にやんわり制された。
 爪先立ちになると、白い花弁を支える萼(がく)のすぐ下に指を添える。茎に沿って、少女はわずかに手を滑らせると、強くつまんで摘み取った。
 翠の眸が睫毛に翳され、ほんのわずかにすがめられる。野ばらを握る白い手に、血がうっすらと滲むのが見えた。
 しかし一瞬滲んだ苦痛の色は、すぐに少女の顔から消え去り、
「ハンスに、逢いにいきますね」
 グレーゴアを向き、陶人形然とした少女の顔が、にっこりとほころぶ。
「いってらっしゃいませ」
 噎せるような芳香の中に取り残され、グレーゴアは少女の後ろ姿を見送った。
 
 夕刻を迎え、少女の帰ったを見計らい主の部屋に踏み入ると、主が寝台より身を起こしていた。
 枕元に備え付けた小机の水差しに手を伸ばし、骨ばった細い指が、挿された野ばらの花弁を撫ぜた。
 先ほどの少女が、生けてくれたのであろう。しかし野ばらの花瓶になった水差しを、主に使わせるわけにはいかない。水差しを、換えてこなければならない。
「ハンス様、野ばらには刺がございます」
「わかっている。アンナが手に、怪我をしていた」
 躊躇なく、主は花の首元に手を掛けて、野ばらを水差しから抜き取った。白く産毛のように、暗い緑の茎を覆う鋭い刺が、細く長い指を傷つける。
 頬のこけた細面に痛みを映すでもなく、主は指先に力を入れたようだった。紅い雫が花の茎を伝って、水差しの中に零れ落ちる。湛えられていた透明な水が、わずかに紅く、濁された。
「アンナの血を吸った、刺だろう」
 主は、自嘲しているようだった。紫の、薄い唇の端が、ほんのわずかに苦しげに歪む。
「グレーゴア。おまえは僕を、軽蔑するか」
「いいえ。ハンス様の仰りたいことを理解は致しかねますが、軽蔑することなどございません」
 感情を押し殺して、グレーゴアは目を伏せた。視界の端で、主は刺のある花を握りしめたまま、うつ伏せに寝台に突っ伏した。
 白い花弁がシーツの上に零れ落ちる。花の芳香が、淀んだ空気をわずかに乱した。ゆったりとした寝着から浮き出た主の体の線は、病に侵され、まるで骨だけのように痩せさらばえていた。
 水差しと、シーツを処分しなければならない。病は血を介して、感染するとされていた。
 ややもして、アンナに怪我をさせないよう気を付けてやってくれ、と。主は寝台に顔を伏せたままに、くぐもった声でグレーゴアに命じた。

 強い風が一陣吹いた。野ばらの白い花弁が、風に負けて、舞い落ちる。美しく、惜しいと思う。
「グレーゴア。花を盗んでいいですか?」
 その日も、グレーゴアは屋敷の庭で作業をしていた。大きな庭を、グレーゴア一人で何とかできるものでもないのだが、主は自分の世話よりも、自分が出ることも叶わぬ庭の手入れを望まれる。それが少女の出迎えを兼ねているのだと、今ではグレーゴアも解していた。
「アンナ様、お待ちください。野ばらには刺がございます」
「だいじょうぶです。ハンスに贈る花なのだから、自分で取りたいのです」
 刺のある花に伸ばされた小さな手を、この日はグレーゴアの皺ばった手が掴み止める。
 驚いた様子で、少女はグレーゴアの顔を見上げた。初めて少女の翠の瞳が、グレーゴアをまっすぐに捉える。濃度の薄い、グレーゴアの感情でさえも、わずかに沸き立つことを自覚する。改めて、美しい少女である。
 少女はみすぼらしい格好をしていた。麻のドレスに、腰まで纏う長い金糸はほつれており、白い指先には無数の細かな傷跡がついている。捕まえると、花の芳香に混じって少女の体臭が、わずかにグレーゴアの鼻についた。
 その汚れの全てが、少女の元来備える清らかさを引き立てているのも事実である。美しく、惜しいと思う。錆びた壁面にみだりに咲き散る野ばらがそうであるように、自身の美しさを至って粗雑に扱っている。
「お手に傷を造られると、主人も悲しみます」
 グレーゴアは空いた片手で、壁に咲く白い野ばらを摘み取った。少女であれば背伸びをせねば届かぬだろうが、グレーゴアにしてみれば肘を曲げたままで届くほどの高さである。グレーゴアの硬い皮膚が相手でも、力を入れて手折る際に刺は容赦なく牙を剥き、指の先がじんわり染みた。
「どうぞ」
 少女は花を受け取ってはくれず、不機嫌そうに眉根を寄せる。陶人形のような精緻な顔が、このような表情をすることに驚いた。
「病は傷口から感染ります。主人の気持ちを、察してください」
 少女は眉間の皺をほどくことはなく、しかし少し乱暴に、グレーゴアの手から白い野ばらを奪い取る。
「ハンスと同じ病気になれるのね」
 白い野ばらの花弁を見つめ、少女は呟いた。
 アンナの血を吸った、刺だろう。主が、零した言葉を思い出す。
 せっかく摘んであげたというのに、グレーゴアから奪う際、野ばらを強く握ってしまったらしい。少女の指先が、じんわり紅く滲んでいた。

 主が今日も、身を起こしている。すこぶる、顔色が良い。
「グレーゴア。最近調子がいい。僕は案外、長く生きてしまうかもしれないよ」
 赤と緑の野菜を浮かべた牛乳のスープに、黒いパン。食器の一つもずれてはいないが、ただスープの湯気だけが消えていた。主に口をつけてもらえなかった朝食を下げようとしたところ、グレーゴアは突然話しかけられた。
 主が自分に話しかけてくることなど、珍しい。主が冷淡であるというのではない。グレーゴアは退屈な人間であった。
「困るだろう。もし僕が死ななければ、おまえは一生使われることになる」
 グレーゴアが用意した硝子の花瓶に、白い野ばらは、毎日新しいものに生けかえられている。新鮮な野ばらの一輪をつまみとると、主は自分の鼻先で刺のあるに構わず弄び、その香りを楽しんでいる。時に白い花弁を甘噛みして味まで確かめ、青白い顔を子供のようにほころばせることもある。
 嫌味を言った主の口調も、どこか幸せそうで。グレーゴアはそんな主の様子を見るのが、不快ではなかった。
「そうですね。しかしハンス様が死んでしまうと、私は悲しむような気がします」
 まるで他人事なのだな。そう言って、主は愉快そうに少し声を上げて笑ってみせた。
「おまえの言葉は嫌いじゃないよ。おまえは僕の孤独を慰めてはくれないが、空気のようにそこにいて、真摯に僕を支えてくれる。とても、感謝している」
 視線を花に据えたまま、主は独り言のように言葉を漏らした。
 感謝などを、望んでいたわけではない。グレーゴアは報酬の対価として、病に侵され命の残り少ない、主に仕えているだけなのである。
 だが主の言葉に胸がほんのり温まった。自分の言葉に、おそらく嘘はなかったと思う。
「そのようなもったいないお言葉は、ハンス様の孤独を慰めて下さった、アンナ様にお掛けになって下さい」
 驚いたように、主がグレーゴアに振り向いた。主のこけた頬に、ほんのり赤みが差した気がする。
 主の青白い顔に満面の笑みが浮かび、おまえがそんなことを言えるのか! と紫の薄い唇が楽しげに言葉を紡いだ。

 野ばらを代わりに摘んであげて以来、少女はグレーゴアを避けるようになってしまった。
 もともと野ばらの蔓は屋敷の周り壁中に張り巡らされており、いちいちグレーゴアに断りを入れずとも、掠めるのはたやすい。
 日によって、少女が屋敷に忍び込むのに気付いてしまうこともあったが、グレーゴアは見て見ぬ振りをすることにしていた。
 無為に一人、庭で鋏を動かしている。草木も野ばらも、それぞれの赴くままに生い茂り、花も葉も瑞々しい。手入れをしようと思っても、一人ではとても無理であったし。その庭の奔放な光景を、グレーゴアはそれなりに気に入っていた。
「グレーゴア」
 気配が背後に立って、高い音(ね)でグレーゴアに声を掛けた。名を呼ばれては、気付かない振りをしてはいけないのだろう。
 振り向くと、長い金の髪を光と花の芳香に洗わせて、少女がずいぶんと近くからグレーゴアを見上げている。少女の翠の視線が、まっすぐにグレーゴアを捉えるのは、どのくらい振りだろう。
「ハンスが、グレーゴアのことも呼んでいるの。一緒に来て」
 白皙の精緻な顔が表情を湛えずそう告げた。よく通る高い声は、いつもの少女のそれであったが、ほんの少し濁っているように感じられる。気が進まないならば、グレーゴアを呼ぶのはやめてほしいと、主に言えば良いものを。
 主は少女の願いなら聞き入れるだろう。グレーゴアは、例え少女に気兼ねをしても、主の命を断れない。
 グレーゴアは野ばらを一輪摘みとって、主の寝室に向かうことにした。指の先が少し染み。少女を真似た自分の行為を、不思議に思った。

 グレーゴアは、寝室の隅っこに控えて、若い二人が戯れるのを眺めていた。
 呼ばれたのは、主の本当に純粋な意向らしい。ただ顔を見たくなったと、そう告げられた。病の自身よりも生気のないグレーゴアを見かねて、幸せを分けてくれたくなったのかもしれない。
 最初は主が、ときおりグレーゴアにも話を振ってくれて、少し困った。だが感情の伴わない返答を繰り返すグレーゴアに、やがて諦めてくれたらしい。申し訳なさそうに視線を送ってくる時もあるが、その頻度も次第に減っていった。
 少女は、当初からグレーゴアのことなど眼中にないようだった。悪感情を抱かれていると思っていたことすら、グレーゴアの思い過ごしだったらしく、まるでグレーゴアの存在を忘れているかのような振舞いである。
 あてつけでは、ないのだろう。ハンスの一挙手一投足に、はにかんだり、拗ねてみせたり、野ばらと同じ真っ白と思っていた頬をほのかに赤らめたり。少女がこのような表情ができるなどと、庭で迎えていただけのグレーゴアには、想像もできなかったことである。
 居心地の悪いことこの上ない。できることならこれからも、庭に控えさせてもらえたらありがたい。
 しかし白い野ばらにとりもたれた、主と少女の睦まじい光景は、グレーゴアにも少し幸せを分けてくれるようだった。

 背に隠した、白い野ばらを持つ指先が痺れてきた。
 どうしたものだろう。捨てるにしても、ここに留め置かれていては捨てられない。なにか理由をつけて、暇乞いしようかとも思ったが、どこかでここを去るのをもったいなく感じている自分がいる。
「グレーゴア、どうした。少し笑っていないか?」
 主に、不意をつかれた。意識を集中させると、確かに唇の端に、慣れない感覚を感じてしまう。
 主は楽しそうに、声を上げて笑った。少女もくすくす笑っている。我知らず、つられそうになる自分がいる。
 グレーゴアが不思議な空気に戸惑っていると、主が突然息を詰まらせ、咳き込んだ。
「ハンス?」
「ハンス様!」
 不思議そうな表情で主の顔を覗きこむ少女は、事の重大性を理解していないようだった。
 自分でも驚くほどに慌てて、グレーゴアは主の元に駆け寄ると、野ばらを持った手で少女を乱暴に押しのける。
 発作は何ヶ月ぶりだろう。医者には、血を吐けば死んでしまうといわれている。慌てたところで、グレーゴアになにができるわけではないのだが。
 主は細い指で口元を抑え、上目遣いでグレーゴアを見上げる。やがて落ち着くと、弱々しく笑んでみせた。
「大丈夫だ。それにしても本当に、おまえらしくないな」
 血は、吐いていない。数瞬放心したグレーゴアの手元に、主は骨ばった手を伸べて、くたびれた白ばらを引き抜いた。
「僕にだろ、もらうよ。グレーゴア、ありがとう」
 主がいたずらな笑顔を浮かべて、そう言った。
 青白い顔の主の笑顔が、果たしてグレーゴアにとって、これほどまでに大切なものであっただろうか。
 グレーゴアは少女に押しのけられた。ふん、と。少女は綺麗な顔に似合わない、不機嫌な鼻息でグレーゴアを追い払う。
 厳しい眼差でグレーゴアを一睨みすると、少女は主から白い花を奪い取った。自分の口にその手を当てて、不意に少女は小さく咳をした。
「アンナ?」
 少し呆けた、ハンスの問いが響いた。
 鮮やかな紅色が、少女の白い口元と、三重四重ほどの真っ白な野ばらの花弁を染め上げた。


 少女が屋敷に来なくなってより、グレーゴアは毎日白い花を摘んで、主の枕元に生けていた。少女が摘んでくれないものだから、グレーゴアの節ばった手が、みるみる傷だらけになっていく。
 グレーゴアの日課は、あまり変わらない。主は相変わらず、グレーゴアに毎日庭の手入れを望んだ。言いつけ通りにグレーゴアは庭に出たが、実はもはや少女が来ないことは知っていた。主には伝えていない。伝えるつもりも、あまりない。
 主の容態は、日を追うごとに悪くなった。笑うことはおろか、言葉を発することすら稀である。発作の頻度は日に日に高まり、ついには主は血を吐いた。


 グレーゴアは、その日も庭で摘んだ一輪の白ばらを、主の枕元に生けていた。
 血を吐いた主の命は、もはや風前の灯火である。目に映すたび、先に見た時よりもやつれている主の顔を、直視することができなくて。我知らず視線を外してしまう自分に、日々嫌悪が募る。
「僕はね、アンナが一緒に死んでくれることを、どこかで望んでいたんだ。だから順番は狂ったけれど、たぶんグレーゴアが思うほど、辛くはないんだ。酷いだろう、愛していたのに、アンナの幸せなど望んでなかった。僕を軽蔑するかい?」
 作業を終え、主の元より辞そうとしたグレーゴアに、主が唐突に言葉を掛けた。主の久しぶりの言葉である。半ば独白のように。しかし言葉の最後にて、主はグレーゴアに許しを乞うた。
「いいえ。軽蔑など、致しません」
 返答をした、自分の声にグレーゴアは少し驚いてしまった。そもそも、自分はこんな声であったろうか。滑らかに迷いなく、力強い低い声が勝手に響いた。
 一体、何様であろう。主と心を通わせることすらできない一使用人が、何の権利を持って主に許しを与えたのだろうか。
 恥じ入り、グレーゴアは肩を竦めて項垂れた。寝台に横たわる主が、くすくすと楽しそうに笑ってくれる。得体の知れない何かが、もう一度主の笑顔を取り戻すために、一時グレーゴアに乗り移ったのかもしれない。無恥を晒した自分を、仕方なくそう、グレーゴアは慰めた。
「ねえ、グレーゴア。僕が死んだら、どうするんだい?」
「十分なお給金をもらっております。どこかに小さな土地を買って、慎ましやかに暮らせればと考えております」
 主は死を間際にしているとは思えない、穏やかで悪戯な調子で問いを掛け、グレーゴアの舌は自身が驚くほどに、淀みなく偽らざる答を紡いでくれる。
「そんなつまらないことを言うなよ。僕の死を、なにか意義あるものにしたいんだ。この屋敷も、庭も、全部グレーゴアにあげるつもりなんだ」
「そんな必要はございません。お給金は、契約の時にもう十分……」
「アンナもいないんだ。受け取っておくれ。おまえにとっては仕事に過ぎなかったかもしれないけれど、僕にはもうグレーゴアしかいないんだ」
 主と言葉を交わすことが、この上なく幸福であった。この時を、永遠に……

 それならば、毎日屋敷の白いばらを摘んで、主の墓に供えに行こうかと思う。
 野ばらの前で、庭の手入れをする振りをしながら、少女の来訪を待とうかと思う。

 そんな希望を、自分らしくなく、少し熱を込めて主に伝えると。
 主は弱々しく、にっこりと笑ってくれた。

・・・

 噎せるような、花の芳香。
 野ばらの蔓は屋敷の外壁のみならず、庭木を飲み込み、白い花と荊(いばら)は屋敷と庭を敷き詰めている。
 鬱蒼と、見捨てられたようなその庭に、ほんの小さく開けた場所が存在した。
 その小さな一角は、下草が綺麗に刈られている。野ばらの蔓も絡まぬように手入れされ、可憐な花たちが遠巻きに、何かを見守るように咲いている。
 その秘密めいた静謐な場所には、名も刻まれぬ、小さな石碑が建っていた。

 ――永遠の花を君に贈る。

 ただ一文、誰かの願いを銘した碑のもとに。
 一輪、手折られた野ばらが生けられている。


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